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腸管出血性大腸菌感染に伴う溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断・治療のガイドライン(改訂版)

腸管出血性大腸菌感染に伴う溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断・治療のガイドライン(改訂版)日本小児腎臓病学会(平成12年6月改定)

[1] 診断

HUSは、主に志賀毒素(Stx)によって惹起される血栓性微小血管障害で、臨床的には以下の3主徴をもって診断する。

A. 3主徴

  1. 溶血性貧血(破砕状赤血球を伴う貧血でHb10g/dl以下)
  2. 血小板減少(血小板数10万/μl以下)
  3. 急性腎機能障害(血清クレアチニン濃度が、年齢別基準値の97.5%値1)以上で、各個人の健常時の値の1.5倍以上)

B. 随伴する症状

  1. 中枢神経症状:意識障害、痙攣、頭痛など。HUS発症直後に急性脳症を合併することがある。
  2. その他:肝機能障害(トランスアミラーゼの上昇), 肝内胆管・胆嚢結石, 膵炎、DICを合併することがある。
1)
日本人小児の臨床検査基準値
(小児基準値研究会編)による血清クレアチニン濃度の97.5%値(mg/dl, Jaffe法)

表組

なお、酵素法による測定はJaffe法での測定結果よりも0.1~0.2 mg/dl程度低値を示す。

  • HUSは、腸管出血性大腸菌感染者の約1~10%に発症し、下痢あるいは発熱出現後4~10日に発症することが多い。患者の約1/4~1/3に何らかの中枢神経症状がみられる。急性期の死亡率は約2~5%である。
  • HUSを疑わせる症候としては乏尿、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠、不穏、痙攣、血尿・蛋白尿などがある。
  • HUSの重篤化因子(リスクファクター)として下記の検査項目が挙げられる。
    1)
    腸管出血性大腸菌感染症時;白血球数の増加
    2)
    HUS発症時;白血球数の増加(20,000/μl以上)、低Na血症(130 mEq/l未満)、低蛋白血症(5.0 g/dl未満)、ALT(GPT)の上昇(100 IU/l以上)
    3)
    HUS発症時から、クレアチニン濃度が2.0 mg/dl以上の症例は、早期に血液浄化療法(血液透析あるいは腹膜透析)が必要になる可能性が高い。

〈注意事項〉

(1)
血小板数の急激な変動と血小板数の算定方法による違いに注意(自動血球算定器では実際の値よりも多く算定される可能性がある)。
(2)
大腸炎の重症化(腸穿孔、腸狭窄、直腸脱、腸重積)にも注意する。

[2] 治療

HUSの治療には支持療法と特異的治療法とがあるが、HUSの治療法の基本は支持療法である。

A.支持療法

1)体液管理

(1)
輸液
  • 水、電解質の管理を厳重に行う。
  • 乏尿・無尿期には強い脱水は少なく、むしろ過剰輸液による溢水(容量負荷)、高血圧、低ナトリウム血症に注意する。
  • 高カリウム血症の場合と低カリウム血症の場合がある. 低カリウム血症に対してはカリウムの補充を行う。
  • 低蛋白血症に対してアルブミン製剤の投与を行う場合には溢水に注意する。
(2)
透析

絶対的適応

  • 乏尿(10 ml / m2 /時間以下)、無尿のある時
  • 他の方法でコントロールできない溢水、高血圧、電解質異常、アシドーシス

透析の中止時期

利尿のみられた時(あるいは利尿剤に反応する時)

方法

施設によって慣れた方法を用いるが、一般的には次の方法が選択される。
  • 年長児:血液透析(HD)または腹膜透析(PD)
  • 乳幼児:腹膜透析(PD)

透析施設への転院時期

HUSは急速に進行する可能性があることから、HUS発症後はすみやかに血液浄化療法が行なえる施設にコンサルトすること。特に、乳幼児は小児の透析が可能な施設にコンサルトすること
2)
高血圧に対する治療
HUSに伴う高血圧は溢水によることが多い。
フロセミド(ラシックス1~2mg/kg/回を使用し、反応しない場合は透析を考慮する)または、カルシウム拮抗剤(透析中は血圧低下に注意する)を使用する。
注)
年齢別の高血圧基準は以下の文献を参照の事
Pediatrics 98 : 649-658, 1996
3)
輸血貧血の急激な進行、血小板の急激な減少に注意し、急性期には1日2回の血球算定を行う。輸血による溢水や高血圧に注意する。 赤血球輸血:Hbを6 g/dl以上に維持するように輸血する。血小板輸血は:出血傾向のある時、外科的処置の前に行う。
4)
脳症に対する治療
  • 痙攣に対しては、ジアゼパム(セルシン)、ジフェニルヒダントイン(アレビアチン)を静注し、もし無効であれば呼吸管理下にチオペンタール(ラボナール)などの麻酔薬を使用する。
  • 脳浮腫に対しては、除水、グリセオール投与(ただし、溢水状態を悪化させる可能性があるので注意して使用する)や透析を行う。(小児神経科医のコンサルトを求めることが望ましい)
5)
DICに対する治療
DICの診断基準を満たす場合は、メシル酸ナファモスタット(フサン)、メシル酸ガベキセート(FOY)、ウリナスタチン(ミラクリッド)、アンチトロンビンIII製剤などを使用する。
6)
中心静脈栄養
1週間以上絶食の場合には考慮する。
B. 特異的治療法

以下の治療法は試験段階のもので、「腸管出血性大腸菌による HUS」に対しての有効性は現時点では確立されていない。

1)
血漿交換療法
HUSの進展(腎機能障害など)の阻止に対する有効性は認められない。中枢神経症状・急性脳症に対する効果は、現在のところ不明である。血漿交換療法を行う場合は、溢水状態の悪化を防ぐために透析の併用を行うのが望ましい。
2)
γ-グロブリン製剤
HUSの進展(腎機能障害、血小板減少など)の阻止効果は認められない。
3)
抗生剤
HUSを発症している時期では一般的には使用しない。
4)
抗血小板剤、プロスタグランデインI2(PGI2 )、血漿輸注、ビタミンE、ハプトグロビン
腸管出血性大腸菌による HUSでの有効性は証明されていない。

[3] 経過観察の指標

1)
尿検査および腎機能検査
尿蛋白、尿β2MG、クレアチニン・クリアランス、血圧、(DMSAシンチ)
2)
腎生検
適応:
  • 長期に無尿の持続していた例
  • 回復期においても中等度以上の蛋白尿や腎機能低下、あるいは高血圧の持続する例
時期: 回復期に施行。
予後判定の指標: 硬化糸球体、血管病変、腎皮質壊死の有無と程度
3)
神経系検査
脳波、CT、MRI、(眼底所見)
(中枢神経症状のあった例には少なくとも1回は行うのが望ましい)

平成8年大流行発生時に診断・治療ガイドラインを日本小児腎臓病学会が作成したが、全国調査の結果により若干の見直しが必要と思われたため今回の改訂版を作成した。

本ガイドラインについてのお問い合わせは 日本小児腎臓病学会事務局 にお願い致します。

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