学会について

理事長挨拶

一般社団法人日本小児腎臓病学会
理事長 中西浩一
(琉球大学大学院医学研究科育成医学[小児科]教授)

この度、理事長を拝命いたしました琉球大学の中西浩一です。私は1994年に本学会に入会し、お世話になってきました。諸先輩方にご指導いただき、本学会に育てていただいたといっても過言ではありません。そこで、本学会の理事長を拝命することを、大変光栄に存じます。同時に大きな責任を感じ、身の引き締まる思いです。

「根拠に基づく最良の医療を皆様に」

定款によりますと、本学会の目的は「小児腎臓病に関する研究と小児腎臓病医療の進歩・発展を推進し、会員相互の連絡、内外の関連機関との連絡を図ること」とされています。医療系学会におきましては、「研究」を駆動力として「医学・医療の進歩・発展」を推進することが最も有るべき姿だと、私は考えています。「研究」と「医学・医療の進歩・発展」とは密接な関係にあり、「研究」の促進無くして「医学・医療の進歩・発展」はあり得ません。「研究」といっても、研究室で試験管を振るイメージの研究だけではありません。臨床試験や疫学研究に代表される臨床研究をはじめ、常日頃の臨床業務において探究心旺盛な姿勢を維持し、積極的に疑問を解決しようとする営みは全て研究に通じるものであり、所謂「リサーチマインド」の重要性はここにあります。「医学・医療の進歩・発展」は何のために必要か、それは「全ての患者さんがより良い医療を遍く享受できる」ためであり、その根本となるのが「根拠に基づく医療(EBM)」です。EBMの実践において、臨床試験やガイドラインは重要なツールです。それ故、学会がこれらの実施に積極的に取り組むことが重要です。もちろんEBMにおいて、「根拠」のみが一人歩きをしてはいけません。EBMはその概念が提唱された時から、「根拠」、「医療資源」、「患さん・ご家族の価値観」が三位一体となって実践されるべきものとされています。このような状況を踏まえ、様々な境遇にある全ての学会員の「研究」を支援できる体制作りに尽力していきたいと考えます。このような活動を通じて、全ての腎臓病を持つ患者さん・ご家族に満足いただける医療をお届けしたいと思います。

「ガバナンスの強化を意識した組織作り・運営」

さて、そのような目的を達成するために本学会はどのようにあるべきか。「令和」の新しい時代を迎え、小児腎臓病学会を含む医療界を取り巻く環境がどんどん厳しくなる状況の中で、本学会はこれまで以上に効果的・効率的な運用が求められます。まさしく、「令和」とは秩序と調和であり、より一層これらが求められる状況にあります。学会における「秩序」とは、何か。一言で言うと「ガバナンス」です。学会が確実に仕事を進め発展するためにはガバナンスの強化が重要であり、その仕組み作りが必要です。「調和」とは言い換えると「一致団結」ということで、皆がそれぞれの立場で一枚岩になって目標を達成するということだと思います。「秩序」と「調和」は表裏一体であり、これらが正しく実現して大きな推進力が生まれます。その実現に向け、組織作り・運営を進めたいと考えます。

「具体的に何をすべきか」

概念的なことはさておき、具体的に何をすべきかについて以下に記載いたします。

  1. 臨床試験等の大型公的研究資金獲得をめざした学会を基盤とした活動
  2. 若手のリサーチマインドの涵養とその実現の支援
  3. IPNAにおける日本小児腎臓病学会の地位向上とIPNA学会招致

◎臨床試験等の大型公的研究資金獲得をめざした学会を基盤とした活動

上述のとおり、今や医療は「根拠に基づく」ことが求められ、その基盤が臨床試験です。本邦の小児腎臓病の分野では、学校検尿を背景に臨床試験を実施し、世界にその成果を発信してきました。しかしながら、臨床研究法の施行などにより臨床試験が益々困難になりつつある状況を鑑みるに大型資金の獲得は必須であり、そのために学会を基盤とした取り組みが不可欠です。その戦略を皆様と模索していきたいと思います。

◎若手のリサーチマインドの涵養とその実現の支援

初期研修や専門研修のあり方を一因として、本邦の臨床医の学術的貢献(実際的には論文数)が諸外国と比較して相対的に減少している事実があります。常日頃の実臨床においてリサーチマインドを持って取り組み、生じた疑問を解決するには何をすればよいか、すなわちどのように研究に結びつけるかを考える作業が後回しにされる傾向がみられ、研究から遠のくことになります。さらに、働き方改革の実施により労働時間が厳しく制限される環境において、具体的かつ確実に若手の研究をサポートする仕組みが必要です。また、地方では人手が少なく実臨床に追われ研究が全くできないという現状もよく耳にします。そのような人達が研究をすることができるように支援する仕組みを、皆様とともに創造していきたいと考えます。

◎IPNAにおける日本小児腎臓病学会の地位向上とIPNA学会招致

歴史的に日本小児腎臓病学会はIPNAにおける貢献度が高く、1986年には第7回IPNA会議の日本開催を実現しています。そのような事実を背景に、アジアの一国であるにも関わらず独立してCouncilorの席を保持してきました。アジアの国々の台頭に伴い、そのことにつき議論されるようになり、IPNAの理事長から見直しが提案される中、これまでの歴史や貢献を説明しCouncilorの席を維持しているところです。諸先輩方が築いてこられた地位と発展を後退させる訳にはいきません。そのような状況下において、39年(2025年)あるいは42年(2028年)ぶりに日本にIPNAを招致することは、改めて日本小児腎臓病学会の貢献を世界に向けて示すものであり、有意義であると考えます。国際学会を本邦に招致することは、単に上述のような意味合いだけでなく、多くの波及効果があります。まず初めに、本邦の多くの若手に国際学会での発表の機会を与え、鼓舞することができます。これは先に述べた若手のリサーチマインドの涵養にも繋がります。日本小児腎臓病学会が国際学会を誘致することにより、本邦における本学会の地位の向上にも繋がり、ひいては大型資金獲得への効果も期待できます。IPNA会議の誘致には強力な統率力と実行力が必要であり、最大限尽力して参ります。

「ポストコロナのニューノーマルへの対応」

最後になりましたが、この度のコロナ禍におきましては、多くの先生がそれぞれのご施設において様々なお立場で対応に尽力されたことと存じます。第1波は終息の兆しがみえてきたとしても、まだまだ予断を許しません。寧ろ、第2波、第3波が来る事を必然として、対応して行く必要があります。日本小児腎臓病学会としましても、どのような形でコロナ禍に対応し、貢献していくのか、さらに、ウィズコロナの新しい世界において、本学会はどのようにあるべきかを皆様と考えてまいりたいと存じます。

以上、理事長就任にあたりまして、私の考えるところをお示しいたしました。皆様に共感いただけましたら幸いです。学会員のみならず、広く皆様にお力添えいただき、本学会を発展させていきたいと存じますので、今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

令和2年7月1日

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